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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)41号 判決

ドイツ連邦共和国、ディ72458、アルプスタットーエビンゲン、パルクヴェグ2

原告

テオドール・グロズ・アンドゾーネ・アンド・アーネスト・

ベッケルトネーデルファブリク・コマンディトーゲゼルシャフト

代表者

トーマス・リントナー

エルンスト・アドルフ・グロツ

フロリアン・グロツ

訴訟代理人弁理士

鈴江武彦

坪井淳

水野浩司

鷹取政信

同復代理人弁理士

河井将次

東京都千代田区霞が関三丁目4番3号

被告

特許庁長官 高島章

指定代理人

河合厚夫

井上元廣

涌井幸一

主文

特許庁が、昭和60年審判第17832号事件について、平成元年8月31日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

主文と同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、1981年8月22日に西ドイツ国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和57年8月14日、名称を「編物機械用編具」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許協力条約に基づく特許出願をした(昭和57年特許願第502495号)が、昭和60年4月6日に拒絶査定を受けたので、同年9月2日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を同年審判第17832号事件として審理したうえ、平成元年8月31日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年10月25日、原告に送達された。

2  本願発明の要旨

本願発明の要旨は、別添審決書写し記載のとおりである。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、実開昭55-96186号公報(以下「第1引用例」といい、これに記載された考案を便宜「第1引用例発明」という。)、米国特許第2685787号明細書(以下「第2引用例」といい、これに記載された発明を「第2引用例発明」という。)を引用し、本願発明は、第1・第2引用例発明及び周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと判断し、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨、第1・第2引用例の記載内容の各認定及び本願発明と第1引用例発明の相違点の認定(審決書2頁9行~5頁11行)は認める。また、相違点〈2〉についての判断(同5頁19行~6頁4行)は争わない。

しかし、審決は、本願発明が第1・第2引用例発明とは異なる重要な構成を有するのに、これを看過し(取消事由1)、本願発明の顕著な効果を看過して相違点〈1〉の判断を誤り(取消事由2)、誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(重要な構成の看過)

(1)  審決は、本願発明と第1引用例発明とは、「〈1〉フックの断面積について、前者は、中間ネック部近傍を最大として、先端側に向かい連続的に減少しているので、フックはフックチップに至るまでテーパ形成をなしているのに対して、後者は、中間ネック部と実質的に同一の太さである点、〈2〉中間ネック部及びフックについて、前者は、フックの先端に至るまで型成形されているのに対して、後者は、ステムはプレスされ、フックは伸線なしで折曲配備され全体が型成形されていない点、の以上〈1〉及び〈2〉の点で両者は相違し、その余の点では両者の構成は一致しているものと認められる」(審決書5頁1~12行)としたが、重大な相違点を看過している。

すなわち、本願発明は、その要旨に示されているように、「フックの断面形状は中間ネック部の近傍からフックチップに至るまで相似形状を保持しており」との構成を必須の要件としているのに対し、第1引用例発明にこの構成はなく、審決がこの相違点を看過していることは明白である。

この断面相似形状の要件は、本願発明の骨子をなすフック部の構造を特定するための要件であり、次に述べるとおり、本願発明の顕著な作用効果との関連で特に重要であって、この構成の看過は審決の結論に影響を与える重大な瑕疵というべきである。

(2)  そこで、本願発明の効果についてみると、本願明細書及び図面(甲第2号証の2・3、第3・第4号証、以下、図面を含め「本願明細書」という。)に記載されているとおり、本願発明は、「フックにおける早期の破壊、曲がりあるいは他の損傷の危険がなく、ニッティング中に生じる大きな歪みに対してフックが耐え得ると同時にその小形化を図ることのできる編物機械用編具を提供すること」(甲第2号証の2、2頁5~9行)を目的とし、これを達成したものである。

編針は、それ自体一般に極めて微小なものであり、そのフック部はさらに微小である。この編針が高速運転される編成機で使用されると強い衝撃を受け、特にフックにおける早期の破壊、曲がりその他の損傷、歪みの発生といった問題が生じる。この衝撃に耐えうるように編針を改善することは、当業者は常に取り組んできた課題である。しかし、フックの小形化と同時に、上記課題を解決することは、従来から必ずしも容易なことではなかった。本願発明は、これらを同時に解決したところに、その技術的意味があるのである。

〈1〉 まず、本願発明の第1の効果は、フックの小形化の達成である。

本願発明の編針のフック断面形状は、中間ネック部近傍を最大として、先端側に向かい連続的に相似形を保持しつつ、フックチップに至るまでテーパ形状をなしている。すなわち、フック部の断面積を、幅方向と高さ方向の二方向の要素からフックの先端に向けて減少することにより、フックの小形化を可能にしたものであって、フック部をこのように構成した編針は、これまで存在しなかった。本願発明は、これによって、編目の細かい高級編物の編成を一層容易にしたものである。

第1引用例発明のフックの断面形状は、幅方向、高さ方向とも一定であり(甲第6号証図面)、フックにテーパをつけるという技術思想は全くない。これによっては、フックの小形化に限界があることは明らかである。

第2引用例には、幅方向の寸法は一定としたうえで高さ方向のみでテーパをつけることが開示されている(甲第7号証第2・第3図)だけで、編針の強度向上をもっぱら目的としており、フックの小形化については一切言及されていない。第2引用例発明でフックの小形化を図ろうとすると、高さ方向の一方向のみでテーパをつけてフックの先端を小さくするしかなく、さらにフックを小形化しようとすると、フックの幅を減少していくほかはないから、フックの基端部分で弱くなり実用に供しえない編針となってしまう。

これらに対し、本願発明は、前示断面相似形状の構成、すなわち、幅方向・高さ方向の二方向からテーパとした構成によって、強度保持をしつつ、フックの先端が小さく、高級編物を編むことができる針を可能としたものである。

〈2〉 本願発明の第2の効果は、フックの早期破損、曲がりその他の損傷の危険が回避できるようにしたことである。

従来から、編針は、特に高速運針では針に与えられる衝撃が非常に激しく、破損、折損、曲がりといったことが常に問題であった。本願発明のフックは、フックチップを除く先端を基準にしてみると、そこから基端部(中間ネック部)に向かって、断面相似形を保持しつつその断面積を逆に増大し、フックは幅方向と高さ方向の二方向で逆テーパで太くなっている。このために、フックは、先端部では小さくても基端部側に向けて幅方向、高さ方向に太さを増大していくので、二方向に増強され、破損、折損、曲げなどに耐えるようにできるのである。

これに対し、第2引用例発明のフックは、高さ方向だけのテーパであり、先端から基端部側に向けて高さ方向に寸法は増大するが、幅方向では一定であるから幅方向の強度は増大しない。もし、幅方向の強度を増大するために幅方向の太さを増せば、フックの先端は必然的に太くなり、フックの小形化に反することになる。このように、本願発明と第2引用例発明とは、その技術的思想を異にするものである。

〈3〉 本願発明の第3の効果は、編成中に生ずる応力集中の回避である。

本願明細書では、これを「ニッティング中に生じる大きな歪みに対してフックが耐えること」(甲第2号証の2、2頁7~8行)として述べられている。編成作業は、編針がカムで毎秒5mにも達する猛烈なスピードで上下動しながら編糸でループを作ることによって行われ、その際、編針とカムとの衝突によって生ずる衝撃により針の振動(ニードルバウンス)が起こり、また、ラッチが回動復帰する際にラッチの先端がフックの先端に与える衝撃も大きく、これらにより断面形状が急激に変化している箇所への応力集中が生じ、フックの破損、折損などの原因となる。

本願発明は、フックの断面形状を中間ネック部からフックチップに至るまで相似形状を保持する構成により、断面形状が急激に変化している箇所で発生しがちな応力集中を可及的に排除しているため、部分的な応力の集中がなく、ニードルバウンスやラッチの衝撃等によるフックの破損、折損などを回避するように意図されている。

本願発明と第2引用例発明を対比すると、フックの基端部及び先端部における断面積を同じとすれば、第2引用例発明では、幅が一定であるから、その高さ方向の減少率は本願発明よりも大きくしなければならず、フックの断面形状に急激な変化が生ずることになり、したがって、本願発明に比較して、フックに大きな応力集中が生ずる構成となっている。

(3)  以上のとおり、本願発明の断面相似形状の構成は、第1・第2引用例のいずれにもなく、これによって、本願発明は上記の顕著な効果を奏するのであるから、これを看過してした審決の判断が誤りであることは明らかである。

2  取消事由2(相違点〈1〉についての判断の誤り)

審決は、前示審決認定の本願発明と第1引用例発明との相違点〈1〉につき、「相違点〈1〉については、上記相違点に基づく前者の構成は、フックチップまでテーパ形状かは一部不明な点はあるものの第2引用例に記載されており、この時、フックチップに至るまでをテーパ状にしても普通に予測される範囲内の効果であるから、この点は設計的事項にすぎない。」と述べるが、誤りである。

(1)  上記のとおり、本願発明のフックは断面相似形を条件として幅方向と高さ方向の双方でテーパ状になっていることを必須の構成としているのに対し、第2引用例には高さ方向の一方向のみのテーパ要素しか開示されていない。この構成の差異を無視して、その効果を予測の範囲内ということはできないことは、明らかである。

(2)  被告は、第2引用例には、フックの断面積をフックの先端に至るまで略テーパ状に連続的に減少させる技術が開示されているとしたうえで、この技術と第1引用例などに記載されているチーク部における断面積をネック部において幅方向・高さ方向の双方で減少させて、フックの小形化を図る技術を組み合わせれば、本願発明に想到することは当業者にとり格別困難ではないとしている。

しかしながら、被告のこの主張は、本願発明で問題としている編針の先端部のフックとは、その果たす機能・作用効果が全く異なるチークのネック部とを混同した議論である。被告が第1引用例及び乙第1~第5号証の各公報を挙げて指摘する小形化は、いずれも編針のチークについてのものでしかなく、フックのものではない。チークのネック部が先細りの構成であることは普通であり、これがあることから、フックについての本願発明の構成が容易であるということはできない。

第4  被告の主張の要点

審決には、本願発明と第1引用例発明との構成の相違点の認定に一部不備があるものの、この不備は本願発明の特許性に影響を与えるものではなく、本願発明が第1・第2引用例及び周知の技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする審決の判断に誤りはなく、原告主張の審決取消事由はいずれも理由がない。

1  取消事由1について

本願発明の断面相似形状の構成は、審決に第1引用例発明との相違点として挙げられていないが、この点は、本願明細書の記載からみて、審決の判断に影響を与えるほどの技術的意義のある事項ではないから、審決が相違点を看過したというには当たらない。

(1)  原告の主張するフックの小形化により編目の細かい高級編物の編成が一層容易になるとの点は、根拠がない。

すなわち、機械編みによる編物の編目の細かさを決めるのは、編成機械のゲージ、すなわち、針床の単位長当たり何本の編針が配置されているかということがもっとも重要であり、次に、度、すなわち、歯(シンカ)に対し編針を摺動方向にどれだけ引き込むかということ、さらに、編糸に与えられる張力であって、フックのみの小形化は、編目の細かい高級編物の編成に何らの寄与をするものではない。

原告は、フックの早期破損、曲がり等の回避について、本願発明と第2引用例発明との間に差異があるように主張するが、第2引用例発明のフックも、先端部から中間ネック部近傍に向けて連続的に断面積を増加するものであり、断面積が増加すれば、断面形状と荷重の方向との関連による程度の差こそあれ、いずれの方向に対する強度も増加することは明らかである。したがって、フックの早期破損、曲がり等の回避という作用効果において、両者に差異はない。

また、応力集中の回避の点についても、第2引用例発明のフックは、中間ネック部近傍を最大とした断面積が先端部に向かい連続的に減少しているものであって、応力集中の生ずるような部材の急変化部が形成されておらず、したがって、応力集中が生じない点において、本願発明と差異はない。

(2)  このように、原告が本願発明の断面相似形状の構成から生ずると主張する作用効果は、第2引用例発明のフックの持つ作用効果と特に差異はないうえ、「構造力学」(乙第10号証の1~5)、「機械設計便覧」(乙第7号証の1~6)のような基礎的文献の記載から明らかなように、部材の強度に直結する断面積を規定する断面の高さ及び幅は、部材に求められる条件に応じて適宜設計されるべきものであり、断面が一様でない梁において各断面に生ずる絶対値の最大な縁応力がいずれの断面においても許容曲げ応力に等しいような等強梁は周知の技術であり(乙第10号証の4)、断面積を変化させるに際し、高さだけでなく幅又は高さと幅の両者を変化させるものがあること(乙第7号証の5)は機械設計の初歩的な技術知識であることを考えれば、本願発明の断面相似形状の構成を持つ針は、第2引用例発明の針の一実施態様という程度のものであり、その相違点は設計上の微差にすぎない。

したがって、本願発明の断面相似形状の構成は、第1引用例発明との相違点として挙げるほどのものではなく、また、挙げられていなくとも、審決の判断に影響を与えるほどの相違点ではないから、これを相違点の看過というには当たらない。

原告の取消事由1の主張は、理由がない。

2  同2について

本願発明の断面相似形状の構成の技術的意義が第1引用例発明との相違点として挙げるほどのものではなく、第2引用例発明の一実施態様という程度のものであることは、上記のとおりである。

すなわち、第1引用例には、編針のチークのネック部において、その断面積を、高さ方向及び幅方向の両方向で連続的に相似形状に減少させる技術思想が開示されており、第2引用例には、編針の断面を高さ方向で連続してテーパ状に減少させるとともに、フック中間部から先端までを円形として相似形状を維持しつつ減少させることが記載されている。

そして、フック部の断面を連続的に減少させることは、周知の技術であり(乙第1、第2号証)、フック部を基端から相似形状に減少させることによって、当業者の予測できない格別の効果がもたらされるわけでもないから、本願発明は、各引用例記載の技術と周知技術から、当業者が容易に発明をすることができるものである。

したがって、審決の判断に誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  取消事由1・2について

当事者間に争いのない本願発明の要旨によると、本願発明は、その「フックの断面積は、中間ネック部近傍を最大として、先端側に向かい連続的に減少されていることにより、フックはフックチップに至るまでテーパ形状をなしており、フックの断面形状は中間ネック部の近傍からフックチップに至るまで相似形状を保持しており」との記載の示すとおり、フック部の断面形状を、中間ネック部近傍を最大として、先端側に向かい連続的に相似形を保持しつつ、フックチップに至るまでテーパ形状とすることにより、その断面積を、幅方向と高さ方向の二方向の要素からフックの先端側に向けて減少することを必須の構成としていることが認められる。

これに対し、第1引用例発明のフックの断面形状は、審決認定のとおり、針幹(ステム)の縦長の長方形の断面積を相似形状に縮小したものではあるが、フック部自体については、先端に至るまで中間ネック部と実質的に同一の太さであり、同引用例(甲第5号証)には、フック部の断面積を先端側に向かい減少するという技術思想は、何ら開示されていないことが認められる。また、第2引用例発明のフックの断面形状は、幅方向の寸法は一定としたうえで高さ方向のみでテーパをつけるものであり、これにより、その断面積が中間ネック部近傍を最大として先端側へ向かい連続的に減少されているが、同引用例(甲第7号証)には、その断面積を、幅方向と高さ方向の二方向の要素からフックの先端に向けて減少することは開示されていないことが認められる。

この事実を前提に審決をみると、審決は、本願発明と第1引用例発明とのフックの断面積についての相違点につき、「前者は、中間ネック部近傍を最大として、先端側に向かい連続的に減少しているので、フックはフックチップに至るまでテーパ形成をなしているのに対して、後者は、中間ネック部と実質的に同一の太さである」(審決書5頁2~6行)と認定しているから、この記載自体からは、両者の相違点を概括的ながら一応誤りなく把握したようにみえるが、この相違点の判断に至り、「上記相違点に基づく前者の構成は、フックチップまでテーパ形状かは一部不明な点はあるものの第2引用例に記載されており」(同5頁14~16行)として、あたかも本願発明におけるフックの断面積を幅方向と高さ方向の二方向の要素からフックの先端側に向けて減少する構成が第2引用例に記載されているかのように捉え、これに基づき、「この時、フックチップに至るまでをテーパ状にしても普通に予測される範囲内の効果であるから、この点は設計的事項にすぎない」(同5頁16~19行)と判断していることが明らかである。

これによってみれば、審決は、結局のところ、本願発明の上記断面相似形状の構成を看過し、その技術的意義を検討することなくして、本願発明が第1・第2引用例発明から容易に想到できるとしたものであり、審理不尽の瑕疵あるものといわなければならない。

2  被告の主張について

被告は、審決が本願発明の断面相似形状の構成を看過したことを認定の不備として認めながら、本訴において、この構成は審決の判断に影響を与えるほどの技術的意義のある事項ではなく、審決の容易推考性についての判断は結局において正当であるとして、種々主張する。

しかし、ドイツ国特許第3133266号明細書(甲第15号証の19)に記載されている発明は、本願の優先権主張の基礎とされた西ドイツ国特許出願に係る発明であり、本願発明の断面相似形状の構成を備えた実質同一の発明であると認められるところ、同明細書には、本願における第2引用例である米国特許第2685787号発明をも公知技術として引用し、これにつき、「針のネック及びフックが先端まで軸と同一の一定の太さを有することにより、針同士の間隔が狭い場合には、ノックオーバ・ビット(Absch akag-platinen)との間隔が余りにわずかしか生じないので、目の細かい製品の作業用の針は問題とならない。更に、フックを曲げる際の四角形の横断面から円形の横断面への移行は、抵抗モーメント及び力学的な関係(dynamischen Ver haltisse)に関連して好ましくない。」(同号証訳文3頁13~18行)と、その欠点を指摘して、上記ドイツ国特許発明がその欠点を除去したものであることを説明していることが認められ、また、「Knitting Technique」1991年3月号(甲第16号証)掲載の第33回ニットウェア専門家国際会議で発表された「CADと有限要素法による針の改良」と題する論文によれば、有限要素法を用いて編針のフックの解析を行うことは、フックの特定の物理的性質を客観的に解明する手段として有用であることが認められる。

これらの事実からすると、本願発明の断面相似形状の構成が第2引用例発明と対比して技術的意義のないものと直ちにいうことは早計に過ぎるものといわなければならず、この点は、さらに、本訴において原告の提出した実験結果図面(甲第10号証の1~4、第11号証の1~3、第12号証、第13号証の1~5、第14号証の1~4)、実験結果報告書及び実験結果図面(甲第15号証の1~17)及び追加実験報告書(甲第17号証の1~8)の内容の考察を含め、再検討を要する事項というべきであり、ひいては、本願発明が第1・第2引用例発明と周知技術に基づいて容易に推考できたものであるかどうかをも、上記の再検討の結果と合わせて検討の必要があるというべきである。

3  そうすると、審決には、本願発明の断面相似形状の構成を看過し、これにより、本願発明の容易想到性について審理を十分に尽くさないまま判断に至った瑕疵があるものといわなければならないから、審決は違法として取消しを免れない。

よって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 芝田俊文)

昭和60年審判第17832号

審決

ドイツ連邦共和国ディ-7470 アルブスタットーエビンゲン パルクヴェグ 2

請求人 テオドール・グロズアンドゾーネアンドアーネスト・ベッケルトネーデルファブリク・コマンディトーゲゼルシャフト

東京都千代田区霞が関3丁目7番2号

代理人弁理士 鈴江武彦

東京都千代田区霞が関3丁目7番2号

代理人弁理士 村松貞男

東京都千代田区霞が関3丁目7番2号

代理人弁理士 花輪義男

昭和57年特許願第502495号「編物機械用編具」拒絶査定に対する審判事件(昭和58年3月3日国際公開WO83/00706、昭和58年8月11日国内公表特許出願公表昭58-501330号)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

Ⅰ 本願は、特許協力条約(PCT)による国際出願に係る昭和57年8月14日の出願(優先権主張 西暦1981年8月22日西ドイツ国)であって、その発明の要旨は、昭和60年10月2日付けの手続補正書によって補正された明細書及び出願当初の図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。

「1. 中間ネック部を有するステムと、このステムに枢着されたラッチと、中間ネック部の端部に一体に形成されたフックと、このフックの先端に一体に形成され、ラッチが閉じ位置にあるとき、ラッチの先端部と協働する位置に位置付けられたフックチップとを備えてなり、中間ネック部及びフックは、フックの先端に至るまで型成形されて実質的に断面矩形形状をなすとともに、フックの角部には面取りが施されており、フックの断面積は、中間ネック部近傍を最大として、先端側に向かい連続的に減少されていることにより、フックタはフックチップに至るまでテーパ形状をなしており、フックの断面形状は中間ネック部の近傍からフックチップに至るまで相似形状を保持しており、フックチップは、ラッチが閉じ位置にあるとき、このラッチと協働する部位が丸く成形されており、フックチップの基部は、丸く成形されたフックチップからフックに至る境目を形成していることを特徴とする編物機械用編具。」

Ⅱ 原審における拒絶理由に引用された実開昭55-96186号公報(以下、第1引用例という)には、中間ネック部相当部分を有する針幹と、この針幹に枢着されたラッチと、中間ネッタ部相当部分の端部に一体に形成されたフックと、このフックの先端に一体に形成され、ラッチが閉じ位置にあるとき、ラッチの先端部と協働する位置に位置付けられた尖端とを備えてなり、針幹は、その断面形状が縦長の長方形にプレスされ、フックは伸線なしで断面形状が長方形のまま折曲配備されると共に、フックが少なくともとがった角部のない形状であって(つまり、角部には面取りが施されている)、フックの断面積は中間ネック部相当部分近傍と実質的に同一の太さからなり、フックの断面形状は、針幹の縦長の長方形の断面積を相似形に縮小したものであり、尖端は、ラッチが閉じ位置にあるとき、このラッチと協働する部位が丸く形成されており(第1、2図参照)、尖端は円錐形をなしているので尖端の基部は、丸く形成された尖端からフックに至る境目を形成しているメリヤス編針が記載されている。また、米国特許第2685787号明細書(以下、第2引用例という)には、フックの断面積が、中間ネック部相当部分近傍を最大として、先端側に向かい連続的に減少されていることにより、フックは尖端部(フックチップ)に至るまで略テーパ形状をなしているメリヤス編針(編物機械用編具)が記載されている。

Ⅲ 本願発明(前者)と第1引用例に記載されたもの(後者)とを対比すると、後者の「針幹」、「中間ネック部相当部分」、「尖端」及び「メリヤス編針」は、前者の「ステム」、「中間ネック部」、「フックチップ」及び「編物機械用編具」にそれぞれ相当するものであり、〈1〉フックの断面積について、前者は、中間ネック部近傍を最大として、先端側に向かい連続的に減少しているので、フックはフックチップに至るまでテーパ形成をなしているのに対して、後者は、中間ネック部と実質的に同一の太さである点、〈2〉中間ネック部及びフックについて、前者は、フックの先端に至るまで型成形されているのに対して、後者は、ステムはプレスされ、フックは伸線なしで折曲配備され全体が型成形されていない点、の以上〈1〉及び〈2〉の点で両者は相違し、その余の点では両者の構成は一致しているものと認められる。

そこで、上記相違点について検討すると、相違点〈1〉については、上記相違点に基づく前者の構成は、フックチップまでテーパ形状かは一部不明な点はあるものの第2引用例に記載されており、この時、フックチップに至るまでをテーパ状にしても普通に予測される範囲内の効果であるから、この点は設計的事項にすぎない。また、相違点〈2〉については、編物機械用編具の作製に当って、型成形とするかプレスによるかは当業者間で本願出願前に普通に知られている技術であるから、前者がプレスに代えて型成形を採用した点は単なる設計上の選択事項にすぎない。

Ⅳ 以上のとおりであるから、本願発明は、第1ないし第2引用例に記載されたもの及び上記周知事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成1年8月31日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

請求人 被請求人 のため出訴期間として90日を附加する。

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